2010年6月9日(水)14時より,山口地裁にて上関原発自然の権利訴訟の第4回期日が開かれ,原告・支援者約20名が山口県・広島県ほかから参集しました.13時半より,傍聴整理券の配布が始まりましたが,今回は全員入廷することができました.その後,弁護団からの今回の公判内容の説明が行われました.
今回は原告側の意見陳述がないため,前日に原告側より提出された準備書面の確認が主となりました.裁判官が入廷し,公判が始まると,原告弁護団の小島智史弁護士より,準備書面の概要が説明されました.今回の準備書面は,原告適格の問題に関する内容で,特に祝島住民と長島の自然を守る会の訴えの利益に焦点をあてたものです.別途,準備書面を掲載する予定ですので,詳細は省きますが,その概要は以下のような内容となっています.
1. 行政事件訴訟法9条2項の意義
・ 原告適格の解釈の指針について定める同規定は,平成16(2004)年の同法改正の際に導入
・ その目的は,「行政事件訴訟による国民の権利利益の救済範囲の拡大」にある
・ よって,「国民の権利利益の実質的・実効的な救済を何よりも重視すべきであり,いたずらに関連法令の趣旨目的や保護されるべき被侵害利益の内容を過度に限定的に捉えて原告適格を著しく狭く解し,救済の門戸を訴訟要件の段階で閉ざしてしまうような形式論的な解釈を取ることは,9条2項の趣旨に真っ向から反する」
2. 祝島島民の生活環境の重大な侵害
2.1. 祝島と本件埋立予定地は瀬戸内海を通じて一個の生活権を形成している里海である
2.2. 本件埋立免許に基づく埋立は祝島住民の生活環境に重大な影響を与える
2.2.1. 漁撈採取に与える影響
2.2.2. 漁業に与える影響
2.2.3. 農作物に与える影響
2.2.4. 島の伝統文化・景観に与える影響
2.3. 祝島住民に対する生活環境の重大な侵害に関する小括
→①島民の生活の基盤である漁業と農業,②近年の特産品生産や無農薬農業などの環境保全の取り組み,③島民のアイデンティティである伝統・文化,④原風景である景観を奪い,「現在の祝島の島民の生活を成り立たせる全てのものを破壊し尽くす結果をもたらす」ため,重大な生活環境の侵害となる.
3. 本件公有水面埋立地に原発を建設することによって生じる,原告らの生命・身体に対する重大な危険
3.1. 対象となる埋立地は,プレートの境界や多数の断層の存在のため地震の発生する確率が極めて高い.そのため,地震による埋立地の崩落,その上に建つ原子力発電所の崩壊によって,「周辺の広範囲の住民に対して重大な生命・身体の危機が生じる可能性も極めて高いと言わざるを得ない」
3.2. 原発予定地周辺の状況
3.2.1. 予定地は,①ユーラシアプレート上にあり,その下には南東方向からフィリピン海プレートが潜り込んでいる,②予定地北側約30kmにある岩国断層帯は,複数の断層からなり,40km以上に及ぶ,③予定地の南,四国北西部には巨大な活断層の中央構造線が走っている,④予定西側30kmには火山帯が存在している.
3.2.2. 予定地の西約2km沖にはM6.8以上の地震を起こす可能性のある活断層(F-1断層群)があり,予定地の半径30km圏内には,M6.3~7.1の地震を起こす可能性のある活断層が5つある.
3.2.3. 山口県内では,1793年M6.4(長戸・周防),1857年M6(萩),1898年M6.2(見島),1941年M6.2(須佐付近),予定地付近では,1903年M6.2(平郡島),1979年M6.1(牛島)が発生.1905年M7.2(芸予地震),2001年M6.4(芸予地震)では瀬戸内沿岸域に大きな被害をもたらした.
4. 祝島島民の原告適格に関する結論
→里海における全島民の生活を残らず崩壊させ,また,生命・身体に対しても重大な被害を生じる危険を与えるという「深刻な被害のおそれを考慮すれば,島民である原告らは,本件訴訟における原告適格を当然に有している」
5. 長島の自然を守る会の原告適格
5.1. 会の構成・内容等→1999年9月25日設立,長島の自然環境・生態系の保護を目的とし,会員数135名,財政規模は200万円程度.
5.2. 活動内容→①上関町長島の陸上及び周辺海域の自然生態系の調査・研究,一般市民を対象としたエコ・ツアーの企画・開催,③調査・研究活動結果の(一般市民向け)広報活動,④調査・研究活動成果の(学術的)報告.
5.3. 活動実績→長島及び周辺海域にて,ハヤブサ(1999:鼻繰島),ナメクジウオ(2000:田ノ浦),カサシャミセン(2000:田ノ浦),イソコハクガイ(2000:田ノ浦),ヤシマイシン近似種(1999-2004:田ノ浦),ミミズハゼ(2004:田ノ浦),カラスバト(2005:長島),オオコノハズク(2007:長島),カンムリウミスズメ(2008:長島近海),ウミスズメ(2009:長島近海),オオミズナギドリ(2009:長島近海)の生息を確認.
5.4. まとめ
→守る会は,瀬戸内海本来の自然生態系が奇跡的に残された上関町長島の自然生態系保全に強い関心をもつ市民と専門研究者が中心となって設立され活動している団体である.よって,その調査・研究対象である長島の自然生態系を壊滅的に破壊し,永遠に喪失させる田ノ浦の埋立および原子力発電所の建設に対し,重大な関心と利害を有する.
その後期日では,準備書面の補充に関する確認,被告(山口県)側の反論は,原告側の主張が出揃ってから行うことの確認,証拠品の確認,次回の期日日程確認を終え閉廷となりました.一同は,そのまま会場を移して,今回の期日を振り返りつつ,今後の方針を議論しました.
小島弁護士より,再度,今回の準備書面に関する内容の説明をお聞きしたのち,籠橋弁護士より,今後の裁判の進行について説明がありました.
まず,期日の最後で確認された,準備書面の補充とは,原告のうち,祝島以外に居住する原告たちの適格性についても,今回のような書面を用意するかというやり取りでした.次回までにその準備をすることとなりましたが,その論旨としては, 50km圏内の住民に原告適格を認めた「もんじゅ」をめぐる訴訟の分析を軸に行われるとのことでした.
また,今後は,生態学会のこれまで行ってきた活動やアピールについても整理していくことなどの裁判方針の説明を頂きました.
質疑においては,今後の裁判において,どのような資料が役立つか,あるいは必要となるか,生態学者などの意見陳述を予定するか,COP10におけるアピールなどについて議論が行われました.
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