2013年9月28日土曜日

「自然の権利訴訟」第17回公判の報告


 去る7月10日(水)山口地裁にて第17回公判が開かれました。その内容をご報告させていただきます。

 今回提出された第13準備書面によって、山口県知事による埋立免許交付が違法である根拠が非常にクリアになったと思います。その内容を追って説明させていただきます。

■県には防災・避難計画を策定する義務がある
 被告(山口県知事)は、国が原子炉立地審査指針をふまえて電源開発基本計画の中に上関を組み入れたのだから、埋立免許交付にあたって県が改めて判断を差し挟む余地はないのだという主張を繰り返して来ました。

 しかし、国と県との間には役割分担があります。重大事故に至る前のこと、すなわち設備の技術的なことに関する安全審査は国が責任を持ち、重大事故が起きてしまった後のこと、すなわち防災・避難計画の策定と実行に関しては県が責任を持つことになっています。

 そして、そのことをふまえれば、仮に技術的な面での安全審査を県が行えないとしても、防災・避難の観点から独自に判断しなければならないことが県にはあるのです。

 つまり、原発を建てるために海を埋め立てるのであれば、その原発が事故を起こした際に周辺の住民をどのように避難させるのか、あらかじめきちんと想定しておく責任が自治体にはあるのです。そして、もし避難が不可能であるならば「国土利用上適切かつ合理的」であるという判断を行ってはならなかったのです。

■なぜ確認されてこなかったのか
 この防災・避難計画の策定義務に基づく自治体の責任は、これまであまりクローズアップされてきませんでした。それは、安全神話によって事故は起こらないものとされてきたからです。それだけに留まらず、事故を想定することは、地域住民をいたずらに刺激するとして、むしろ避けられてさえきました。

 制度的にもその不備は認識されながら不十分なまま放置されてきました。原子炉立地審査指針は「必要に応じて公衆に対して適切な措置を講じうる環境にあること」として将来的に防災・避難計画の適切な策定が可能であることを求めながらも、立地審査の段階ではそれらの実現可能性を審査するしくみを備えてきませんでした。ただ曖昧に、県の責任だから、、といってごまかしてきたのです。

■3.11の教訓に応えるために
 その結果、日本のすべての原発において、防災・避難計画はないがしろにされてきました。福島の事故はその代償が決して小さくないことを私たちに突きつけています。現在、国が新たに指針を定めて各地の原発立地自治体とその周辺において防災・避難計画の見直しが進められています。つまり、これまでの防災・避難計画では不十分であったと国も認めているのです。

 この新しい基準で上関周辺を見た場合、祝島住民の避難はほぼ不可能であることが明らかです。このことからも、周辺住民の避難を考慮しないまま、原発が建つ土地の埋め立てを認めてしまったことは違法だといわざるを得ません。

 この裁判でいま問われていることは、安全を置き去りにしても既成事実を先行させてしまえば、なし崩しで原発ができてしまうという、これまでの日本の原発の根底にある問題なのです。今後同じ手口を許さないようくさびを打ち込むためにも、ぜひ全国から応援していただきたいと思います。

■原告には訴えの利益が確かに存在する
 さて、法廷では引き続いて「埋立免許無効確認訴訟」の方の弁論が行われました。こちらは、前回被告側から原告適格をめぐって「いちゃもん」が入ったので、それに対する反論が行われました。

 原告らは漁業権(許可漁業権、自由漁業権)、生存権、生活環境の利益、文化的・景観的利益、自然享有権などさまざまな権利を有しており、原発建設を前提に行われる埋め立てはそれらを侵害するものだ、よって原告らには裁判所に訴える権利がある、ということが主張されました。

 準備書面は提出することでその内容が法廷で述べられたことになることから、口頭での陳述を割愛することも多いのですが、それでは傍聴者にはまったく分かりません。しかし、若い小島弁護士が傍聴者にもよく分かる開かれた裁判にするためにと、口頭で丁寧に内容を陳述されていたのが印象的でした。

■これからの見通し
 公判後の報告集会において、籠橋弁護士は「こちらの論拠は非常に明確になった。これで主張は一応終えて、これから立証の段階に入っていきたい。現地検証や証人尋問も考えたい」と言われました。従来から取り組まれてきた「埋立免許取消訴訟」の方は、すでに骨格ができあがり、これから肉付けの作業が行われていくそうです。今後ともご注目よろしくお願いします。

文責:小坂勝弥(原告の一人・京都在住)

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