2010年3月8日月曜日

上関自然の権利訴訟 原告団ニュース

準備書面(h22.3.3)

平成21年(行ウ)第20号 公有水面埋立免許取消請求事件

原 告  長島の自然を守る会 外
被 告  山口県           

準 備 書 面             


平成22年3月3日
山口地方裁判所 民事部 御中

原告訴訟代理人
弁護士   籠橋隆明           
弁護士   赤津加奈美           
弁護士   泉 武臣           
弁護士   小島智史           
弁護士   丸山明子           


第1 本書面の目的

 本書面において,原告らは,別紙目録1の原告らの原告適格について主張する。
 原告らは,準備書面1において,別紙目録1の原告らが,祝島および田の浦周辺で魚介類を採取する生活上の利益や,祝島から田の浦の方角に向かって毎朝,朝日に向って手を合わせて祈りをささげる文化的・景観的利益,原子力発電所の脅威から生命身体を保護する利益を有することについて述べた。
 そこで,本書面においては,別紙目録1の原告らの有するこれらの利益が,行政訴訟法9条2項の法律上保護された利益に該当することを述べ,もって当該原告らに本件訴訟の原告適格が存することを主張する。
 以下詳述する。

第2 公水法を根拠法とする処分の原告適格に関する判例
1. 小田急最高裁判決
1) 平成16年に行政事件訴訟法が改正され,抗告訴訟における原告適格の判断基準が明示された。同法第9条は1項で「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができる」と定め,同条2項で「裁判所は,処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては,当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」と定める。

2) 原告適格の判断基準については判例は法律上の利益説を基準とするも,当該条文だけでなく,それを基本としてそれ以外の関連法規にまで拡大する解釈を採用している。新潟空港運送事業免許取消事件(最高裁平成元年2月17日判決,民集43巻2号56頁)では処分の根拠条文のみならず,航空法の趣旨目的や航空機騒音障害防止法にまで言及して原告適格の枠組を拡大した。もんじゅ原子炉事件(最高裁平成4年9月22日判決,民集46巻6号571頁・1090頁)では,「当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を併せ考慮して」公益に解消されない利益の有無を判断した。こうした原告適格に関する判断基準は判例の定着した流れであり,原告適格に関する判断はその後も徐々に拡大の傾向にあると言える。上記,平成16年の法改正はこうした原告適格拡大の判例の流れに沿った内容と言えるし,法改正の趣旨は原告適格の範囲を拡大し,司法による行政統制の枠組を拡大,行政の民主的統制の拡大を図るというものである。

3) ところで,平成17年12月7日の最高裁判決(小田急判決)は,この処分の相手方以外の「法律上の利益を有する者」につき法改正後,初の判断を下したのは周知のとおりである。ここでは,都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は同事業の認可の取消しを求める訴訟の原告適格を有するとした。この判決では都市計画法が「都市計画の基準に関して,当該都市について公害防止計画が定められているときは都市計画がこれに適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き),都市施設は良好な都市環境を保持するように定めることとしている(同項5号)」とした上で,「公害防止計画の根拠となる法令である公害対策基本法は,国民の健康を保護するとともに,生活環境を保全することを目的とし(1条)」ているとして,公害対策基本法の条文を具体的に検討した。
  事業認定と原告適格との関係については,すでに平成11年11月25日最高裁判決があり,原告適格の範囲をきわめて限定して解釈してところであるが,前記小田急事件はこれを変更し,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある周辺住民につき原告適格を認めたものである。

4) 小田急事件は行政事件訴訟法改正後出された判決として最高裁として原告適格に関する判断の枠組を示したものとして意義は大きい。この点,平成11年判決と比較して,「反射的利益」と「直接的な利害」との判断の差が示されているというべきである。目的を同じくする関連法規もあわせて原告適格を判断することはすでに定着した判例であり,平成16年改正でも条文化されたものと言える。それでも,「反射的利益」と「直接的な利害」との判断の差をどこに見いだしていくかは重要な問題として残されている。
  この点,小田急事件は都市計画を定めるに当たって遵守するべき公害防止計画の根拠となる法令である公害対策基本法(改正後環境基本法)の趣旨を分析した上で,東京都環境影響評価条例を検討している。最高裁は「本件条例は,被上告参加人が,良好な環境を保全し,都民の健康で快適な生活を確保するため,本件条例に定める手続が適正かつ円滑に行われるよう努めなければならない基本的責務を負うものとした上で(3条),」,都条例の「これらの規定は,都市計画の決定又は変更に際し,環境影響評価等の手続を通じて公害の防止等に適正な配慮が図られるようにすることも,その趣旨及び目的とするものということができる。」とした。
  最高裁の手法は保護する法益を,安易に一般公衆の利益としなかった。判例は都市計画法,旧公害対策基本法など明文の根拠を手がかりに「当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。」とし,一定の地理的範囲の居住者の利益をほかと区別して位置づける努力をすべきだとしたのである。判例が東京都環境影響評価条例を引き合いに出して,影響を受ける範囲を考慮しているのも,こうした「直接的な利害」を考慮する上で,法がいかに運用され,いかなる者の利益を図ろうとしているかを具体的に検討するべきであるとしているからである。
  小田急事件は平成11年判決を変更したものであるが,それは安易に「反射的利益」としていたそれまでの原告適格の判断のあり方そのものも変更したと見るべきである。

2. 伊達火力発電所事件判例は変更されるべきである。
1) 本件は,公有水面埋立法を根拠法とする処分において,処分の相手方以外の者の原告適格を争うものであり,これに関する最高裁の判断としては,昭和60年12月17日の最高裁判決(伊達火力発電所事件)がある。
  伊達火力発電所事件では最高裁は原告適格の範囲を「行政権の行使に制約を課していることにより保障されている権利利益も」保護に値するとし,その利益は「直接明文の規程はなくとも,法律の合理的解釈により当然に導かれる制約も含む」とした。しかし,ここでは当該公有水面に関し権利利益を有する者については,埋立免許および竣工認可により当該権利利益を直接奪われる関係にあるとして原告適格を認めたが,その周辺で漁業権を有する者に対しては,それを保護することを目的として埋立免許等の行使に制約を課している明文の根拠はなく,解釈によってそのような制約を導き出すのは困難として,周辺で漁業をおこなう者に対して原告適格を認めなかった。

2) しかしこの判決は,行訴法改正,それを受けた小田急最高裁判決前の判決であり変更されるべきである。小田急事件は新潟空港訴訟以来の判例及び改正行政事件訴訟法を受けて,目的を同じくする関連法規を含めて法律上の利益を考慮するものとした。しかしながら,伊達火力発電所事件では最高裁は処分の根拠となる「行政法規」のみを検討対象にして,目的を同じくする関連法規の解釈を行わなかった。小田急事件の判例からすれば,関連法規も含めて明文の解釈,法律群の実際の運用を具体的に検討して,原告適格を有する者の範囲を画する努力が必要なのであるが,伊達火力発電所事件ではそのような努力はないまま,安易に「反射的利益」という言葉を用いて原告適格の範囲を極めて限定的に解釈したものと言える。

3) 公有水面埋立法は昭和48年に改正され,免許基準として「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト(4条1項2号)」が加わった。伊達火力発電所事件はこの改正前の処分についての事例であり,この点でも先例的価値は低い。

4) 伊達火力発電所事件判決以後も下級審判決では,上記環境保全条項を抽象的利益を定めるに過ぎないとした事例もあるが,先に述べたように,小田急判決が,旧来は反射的利益を有するにすぎないと判断していた周辺住民に対し,関連法規等を参照した上,法律上保護された利益を認め,原告適格を拡大した事実にかんがみれば,この判決も同様に変更され,周辺の漁業権者及び埋立等によって景観的利益や生命・身体の利益等を害される恐れのある住民に対しても原告適格が認められるべきであることは論をまたない。

3. 下級審判例の動向
1) 周辺住民の景観的利益
  小田急最高裁判決を受けて,実際,平成21年10月1日広島地裁判決(鞆の浦判決)は,関係法令として瀬戸内法や景観法などを参照し,当該埋立によって侵害される鞆の浦の景観の価値および回復困難性から,鞆の浦の景観的利益を有すると認められる者は,法律上の利益を有すると判断した。

2) 周辺住民の生命,身体の安全
  また,平成19年10月31日広島高裁松江支部判決は,関連法規として環境影響評価法,環境基本法,島根県環境影響評価条例などを参照し,処分が法に違反してされた結果,事業地の周辺地域に居住する住民の生命,身体の安全が脅かされ,又,健康や生活環境に著しい被害が発生する場合には,その内容,性質,程度等に照らし,当該住民の具体的利益を一般的公益の中に吸収解消させることは困難であるといわざるを得ないから,個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含んでいると解すべきである,と判示している。
  また,平成20年9月8日福岡高裁判決も同様,関係法令として環境基本法, 大気汚染防止法,水質汚濁防止法,騒音規制法等を参照したうえで,周辺地域で生活し日常的に埋立区域や,水質や底質の悪化する周辺水面に接する者であって,埋立工事による汚濁流出等に伴う水質や底質の悪化等により,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である,と述べている。

4. 結論
  以上,行政事件訴訟法改正及び小田急最高裁判決からすれば,伊達火力発電所事件判決は変更されるでき判例であること,伊達火力発電所事件自体,公有水面埋立法改正前の処分に関するものであること,小田急最高裁判決以降の下級審判決の動向からすれば,公有水面埋立免許に関する原告適格を判断するに当たっても,目的を同じくする法規を考慮し,一定地域住民に原告適格が認められるべきであり,以下に述べるとおり原告らは原告適格を有すると言うべきなのである。

第3 公有水面埋立法
1. 海岸の公共性
1) 海岸は,陸と海とが接する空間であり,多様な生物相が展開する生態系が形成されるとともに,古来人々の様々な活動に利用されてきた重要な空間でもある。我が国では海岸部には私的所有権は及ばず,砂浜を含んだ海岸は自然公物とされ,国及び自治体によって管理されている。こうした人々の「共有物」は自然法上人類の共有物とされると考えられ,何人も海岸に接近することは禁止されなかった。人々は海岸を通行し,漁撈を営み,天然資源を得てきたのである。さらに,人々は海岸を楽しみ,海岸で文化を形成してきた。かように,海岸は過去の世代から受け継がれ,現在の世代がそれを楽しみ,未来世代に引き継ぐべき人類の共有財産である。

2) 海岸については我が国では海岸法等によって管理されているが,同法は平成11年に改正され,海岸環境の保全を重視する内容となっている。同法を受けて平成12年5月に海岸保全基本方針が策定され,同方針では,「国民共有の財産として美しく,安全で,いきいきとした海岸を次世代へ継承していくことを,今後の海岸の保全のための基本的な理念とする」として,海岸の保全に関する基本的な事項が定められた。海岸法によっても,人類の共有物として未来世代に引き継がれるべきものとされたのである。

2. 海岸の公共性と考慮するべき要素
1) 海岸に対する具体的利益
  このように海岸が公共性を持つのは人々がそこより利益を受けてきたからである。海岸の機能の実際からすれば,海岸に対しては特定の人々が利益を享受してきたのである。原告らは本件埋立対象区域の海岸及び海にて漁撈をし,自然を楽しみ,自然観察などを営み,自然保全活動を行ってきた。海岸の公共的価値はこうした,具体的利益の検討無くして考えられないのである。

2) 当該海岸と周辺海域,周辺海岸との関連性
  また,海岸はそれだけ独立して存在することはない。海岸という広範な面積を持つ区域が海岸として保全されることにより,当該海岸,当該海の周辺海域,周辺海岸の環境も保全されていく関係にある。それは,砂の移動や,海流など考えれば容易に想像がつくことである。広範な海岸の喪失が周辺海域,周辺海岸に対して深刻な影響を与えることは公知の事柄である。加えて,海岸という広大な土地利用のあり方によっては周辺地域に対する深刻な被害を与えてきたことは水俣病などの我が国の公害の歴史を見れば明らかである。当該海岸の公共性は単に,当該海岸の機能を見るばかりでなく,周辺海域,周辺海岸との関連性において判断されなければならないことである。海岸法,瀬戸内法などが基本計画を立てた上で保全を図っているのも,海岸の持つ公共的機能をこうした周辺海域,周辺海岸との関連性において考慮しなければらないと考えているからである。

3. 埋立免許の要件
1) 埋立免許の趣旨
  このように海岸は「国民共有の財産」ではある上,海岸の持っている多様な価値から,海岸に対しては様々な人々の具体的な利益と結びついている。また,海岸の利用形態によっては人々の生活に深刻な打撃を与えることもある。公有水面埋立法は海岸の公用を廃止して個人の所有権に帰する制度であるが,海岸の持っている本来の公共的機能を排することの妥当性,海岸に関連して具体的な利益を持っている人々に対する配慮,海岸の利用形態によってもたらされる環境の変化に対する配慮などを考慮して免許の要件が次のように定められているのである(法4条1項)。
  「一  国土利用上適正且合理的ナルコト
    二  其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト
    三  埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ 法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト
   四  埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト  」

2)「国土利用上適正且合理的ナルコト」
  海岸には本来所有権は認められないのであるが,例外的に公有水面埋立法に基づく免許が得られた場合については特定の者が海岸,海に所有権を原始的に得ることができる。本来,海岸の公共的性格からすれば,特定の者の所有権を得させることは許されないのであるが,埋立目的の公共性,必要性などが厳格に審査された上で,免許されなければならない。
  特に,海岸が古来より人々の生活に不可欠な存在として関わってきたことを考慮すれば,この要件を判断する際にも人々の生活上の利益を害さないものであることが求められる。海岸の大規模開発を目的として公用を廃止するというのであれば,当該開発が人々に与える具体的な影響が考慮されなければならない。実際,「適正且合理的」という時,当該埋立後の土地利用の形態無くして判断できない。当該埋立による開発によって周辺住民に社会,経済,環境上の悪影響が予想される場合に,その点を全く考慮しないまま「適正且合理的」であることの判断はできない。実際,埋立免許願書には埋立の必要性,埋立後の土地利用のあり方も記載しなければならず,土地利用のあり方そのものも埋立免許の審査の対象となっている(公水法2条2項及び3項)。
  本件では原告適格の範囲が問題となるのであるが,「国土利用上適正且合理的ナルコト」の判断が土地利用のあり方も審査の対象となっている以上,当該免許に対して直接利害関係を持つ者の範囲には,埋立後の土地利用によって悪影響を受ける範囲の者がいかなる範囲かも考慮して判断されなければならないのである。

3) 「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」
  我が国では,公害など環境汚染の深刻化に伴い,40年代初めから大規模工業開発予定地域を対象として,産業公害総合事前調査が実施されていた。47年6月には「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解が決定され,この閣議了解において,政府は道路,港湾,公有水面埋立て等の各種公共事業について「あらかじめ必要に応じ,その環境に及ぼす影響の内容及び程度,環境破壊の防止策,代替案の比較検討等を含む調査研究を行い,その結果に基づいて所要の措置をとるよう事業実施者を指導すること」とした。また,地方公共団体においても,これに準じて所要の措置が講ぜられるよう要請することとされた。
  こうした経緯を受けて,翌48年には「港湾法」,「公有水面埋立法」,「工場立地法」の一部改正,「瀬戸内海環境保全臨時措置法」(53年「瀬戸内海環境保全特別措置法」と改称)が制定された。これにより港湾計画の策定に際し,環境に与える影響について事前に評価することとされ,公有水面の埋立てについて環境保全に対する配慮が免許基準として明文化される等環境保全上の配慮が強化された。
  こうして,公水法4条1項2号には「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」と定められた。法47条2項は一定面積以上の埋立の場合には環境大臣に環境保全上の意見を求めることになっている。こうした,公有水面埋立法に環境保全要件が定められた経緯などを考慮すれば,この場合の環境保全の意味は,当該埋立工事,埋立材による水質などの悪化,埋立そのものによって生じる水質の汚濁,水域面積減少に伴う水質の悪化などの外,本件土地供用開始に伴う大気汚染,騒音,景観破壊など総合的に考慮されなければならない。
  そうであるならば,本件環境条項に際して考慮された住民の範囲については原告適格を有すると考えられるべきであるし,本件埋立地の供用によって生じうる環境的被害(放射能汚染も含む)について利害関係を有する者についても原告適格が認められるべきなのである。

4) ところで,公有水面埋立法によれば,都道府県知事は,埋立の免許の出願があったときは,遅滞なくその事件の要領を告示するとともに,公水法2条2項各号に掲げる事項を記載した書面及び関係図書をその告示の日から起算して3週間公衆の縦覧に供しかつ,地元市町村長から意見を徴し(法3条1項),関係都道府県知事に対しても通知をしなければならず(同条2項),通知を受けた都道府県知事は,遅滞なく関係住民に周知させるように努めなければならない(同法施行令4条)。そして,その埋立に関し利害関係を有する者には,都道府県知事に対して意見書を提出することを認め(同条3項),都道府県知事は,埋立免許の際,公益上又は利害関係人の保護に関し必要と認める条件を付すことができ(同法施行令6条),このように,当該埋立に利害関係を有する者に対して一定の手続的措置を講じている。
  今回,上関の埋め立てに際して,山口県は利害関係人の範囲を定めずに広く意見を徴し,公水法3条1項の「2条2項各号に掲げる事項を記載した書面及び関係図書」を,上関役場と山口県庁港湾課において縦覧させた。
  特に上関町の人々に対し,町内の役場において公水法3条1項の書面及び関係図書を縦覧する機会を設け,手続き的関与を保障した点に鑑みれば,上関町民は,以下の関連法規で論じる通り,法律上保護された利益が認められ,本件埋立につき原告適格を有するというべきである。

4. 結論
1) 以上,公水法上の各要件を考慮するならば,埋立工事影響,埋立によって生じる海岸の喪失によって影響を受ける者,埋立後の供用開始によって生じる影響を受ける者については公水法は保護を図っているのであり,原告適格を有するものと言わなければならない。少なくとも,山口県が関係図書を上関住民を対象に公告縦覧に供し,上関住民の意見を聴取していることを考慮すれば,上関住民には原告適格が認められてしかるべきである。また,海岸の前記公共性からすれば本件埋立対象地域で具体的に行動し,自然環境の利益を享受してきた者は原告適格を有してしかるべきである。

2) 本件では1号要件,2号要件を考慮すれば,環境基本法,環境影響評価法,電気事業法,瀬戸内海環境保全特別措置法が当然目的を同じくする関連法規として考慮されるべきである。また,公有水面埋立法は当該埋立地供用後の環境に対する影響も考慮の対象としており,本件が原子力発電所を供用の目的としていることを考慮すれば原子炉等規制法も関連法規として含めなければならない。

第4 環境基本法,環境影響評価法など
1. 本件ではいわゆる閣議アセスが実施されていたが,平成9年環境影響評価法施行に伴い,引き続いて同法に基づく環境影響評価手続きが行われた事例である。
  環境影響評価法は電気事業法に基づく電気工作物を第1種事業の対象としている(法2条)。そして,同法によれば,原子力発電所は全て第1種事業となっているため,本件では環境影響評価手続きが行われたのである。
  具体的な環境影響評価手続きは所轄大臣が定めることになっている。電気工作物については電気事業法が,第二款の二において環境影響評価手続きを定めており,環境影響評価手続きの一般的ルールは環境影響評価法の定めに従い,それに加えて電気事業法に基づく手続きが存在する(電気事業法46条の2)。
  環境影響評価手続きについては評価書の関係住民に対して,公告縦覧手続きを定めている(電気事業法46条の9)。

2. このように本件では環境影響評価法及び電気事業法に基づき,環境影響評価手続きが行われたのであるが,本件環境影響評価手続きにおいては大気,騒音,振動,水質,海象,動植物,景観と多岐にわたって調査された。この手続き自体が不備であること,本件原子力発電所が環境に対して著しい悪影響を与えるものであることは訴状においても指摘した。
  本件では環境影響評価手続きの不備を指摘しているが,環境影響評価手続きの不備は電気事業法上の違反となり,違法事由となる。この場合,電気事業法上の許されない工作物となるため,公有水面埋立法との関係で言えば,当該電気工作物の建設が,埋立免許の要件である「国土利用上適正且合理的ナルコト」(4条1項1号)に違反することになる。また,環境影響評価手続きに違反することは「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」(4条1項2号)とは言い難い結果となるため,この要件も満たさないということになる。

3. 公有水面埋立法4条1項2号は「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」を要件とする。そのため,埋立願書を提出する者は,「環境保全に関し講じる措置を記載した図書 」を添付して提出しなければならない(公水法2条3項5号,同法施行規則3条8号)。この図書と環境影響評価書とは別のものであるが,内容は重なっている。
  訴状でも指摘したとおり,中国電力の環境影響調査は不十分であり,当然,「環境保全に関し講じる措置を記載した図書 」も不十分である。その結果,本件では「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」の要件を満たさない。

4. 以上のように,公水法4条1項1号,2号を考慮すれば,電気事業法,環境影響評価法は目的を同じくする関連法規として考慮されなければならない。環境影響評価手続き及び公水法4条1項2号に基づく環境調査については,その運用は大気,騒音,振動,水質(赤潮も含む),温排水,海象,動植物,景観と多岐にわたる。これらの影響は祝島島民の生活に影響を及ぼしうるものである。そして,上関町住民に対して公告縦覧に供し,意見を求めていることを考慮すれば,公水法,環境影響評価法は祝島住民など上関町住民を利害関係ある者として扱っていると考えられる。加えて,景観的利益,自然環境より得られる利益を享受する住民である原告らにも原告適格が認められてしかるべきである。

第5 瀬戸内海環境保全特別措置法(以下,「瀬戸内法」という。)
1. 公有水面埋立法との関連性
  瀬戸内法は,瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するための瀬戸内海の環境の保全に関する計画の策定等に関し必要な事項を定めるとともに,特定施設の設置の規制,富栄養化による被害の発生の防止,自然海浜の保全等に関し特別の措置を講ずることにより,瀬戸内海の環境の保全を図ることを目的とする法律である(1条)。
  そして,瀬戸内法は,13条1項より,山口県を含む関係府県知事(2条2・3項参照)の,瀬戸内海における公有水面埋立法第2条1項の免許については,第3条第1項の瀬戸内海の特殊性に十分配慮しなければならないと規定しているから,瀬戸内法が公有水面埋立法の関連法であることは明らかである。

2. 瀬戸内法と公有水面埋立法の保護法益
1) 瀬戸内法第3条1項に基づき,瀬戸内海環境保全基本計画(以下,「基本計画」という)が策定され,また,第4条1項に基づき,瀬戸内海の環境の保全に関する山口県計画(以下,「県計画」という)が策定されている。

2) このうち,基本計画では,第1の1で,「瀬戸内海が,我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝の地として,また,国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として,その恵沢を国民が等しく享受し,後代の国民に継承すべきものであるという認識に立って,それにふさわしい環境を確保し維持すること及びこれまでの開発に伴う失われた良好な環境を回復することを目途として,環境保全に係る施策を総合的かつ計画的に推進するためこの計画を策定するもの」とし,瀬戸内海の景観及び漁業資源にふさわしい環境の確保・維持・回復を目的として計画を策定するとしている。そして,第2で計画の目標として,漁業資源や人の健康の維持のための水質保全等に関する目標と,自然景観の保全に関する目標という,瀬戸内海の生活環境に関わる目標を挙げている。
  そして,第3の5で,「公有水面埋立法に基づく埋立の免許…に当たっては,瀬戸内海環境保全特別措置法第13条第1項の埋立てについての規定の運用に関する同条第2項の基本方針に沿って,引き続き環境保全に十分配慮するものとする,また,環境影響評価法及び府県の環境影響評価に当たっては,環境への影響の回避・低減を検討するとともに,必要に応じ適切な代償措置を検討するものとする。その際,地域住民の意見が適切に反映されるよう努めるものとする。」としており,環境保全への十分な配慮と,特に瀬戸内海での埋立に関する環境影響評価に当たって地域住民の参加を必要としている。さらに,第3の14で,瀬戸内海の環境保全対策の実効を期するため,瀬戸内海地域の住民や民間団体及び瀬戸内海を利用する人々の正しい理解と協力が不可欠であり,瀬戸内海の環境保全に関する思想の普及及び意識の高揚を図るものとするとし,また,汚染負荷量の削減,廃棄物の排出抑制,環境保全への理解,行政の施策策定への参加等の観点から,住民参加の推進に努めるものとしている。したがって,これらの規定からすると,同計画は,住民の手続的参加権及び住民の瀬戸内海における生活環境を保護する趣旨・目的を含んでいる。

3) また,県計画でも,第1で瀬戸内海の景観及び漁業資源にふさわしい環境の確保・維持・回復を目的として,山口県の区域における計画を策定するとしている。そして,第2で計画の目標として,漁業資源や人の健康の維持のための水質保全等に関する目標と,自然景観の保全に関する目標という,瀬戸内海の生活環境に関わる目標を挙げている。
  そして,第3の5で,「山口県の区域における公有水面埋立法第2条第1項の埋立の免許…に当たっては,瀬戸内海環境保全特別措置法第13条第2項の規定に基づき,瀬戸内海環境保全委員会が答申した同条第1項の埋立てについての規定の運用に関する基本方針に沿って,引き続き環境保全に十分配慮するものとする,また,環境影響評価法及び山口県環境影響評価条例に基づく環境影響評価に当たっては,環境への影響の回避・低減を検討するとともに,必要に応じ適切な代償措置を検討するものとする。その際,地域住民の意見が適切に反映されるよう努めるものとする。」とし,環境保全への十分な配慮と,特に山口県内における瀬戸内海での埋立に関する環境影響評価に当たって,地域住民の参加を必要としている。さらに,第3の14で,瀬戸内海の環境保全対策の実効を期するため,瀬戸内海地域の住民や民間団体及び瀬戸内海を利用する人々の正しい理解と協力が不可欠であり,瀬戸内海の環境保全に関する思想の普及及び意識の高揚を図るものとするとし,また,汚染負荷量の削減,廃棄物の排出抑制,環境保全への理解,行政の施策策定への参加等の観点から,環境保全施策の推進に当たっては,パブリックコメント等を実施し,住民意見の反映に努めるものとしている。以上のように,県計画は,基本計画よりもさらに具体的な形で,地域住民の手続的参加権及び住民の瀬戸内海における生活環境を保護する趣旨・目的を含んでいる。

3. 以上より,公有水面埋立法の埋立免許に関する規定は,同法並びに関連法である瀬戸内法及び基本計画・県計画の趣旨・目的を含めて考えた時,地域住民の生活環境を保護する趣旨を含むと考えるべきである。また,関連法である瀬戸内法や基本計画・県計画が,生活環境の保護のための原告ら地域住民の手続的参加権をも保護していることからすれば,公有水面埋立法の埋立免許に関する規定は,違法な埋立事業に基づく健康被害,景観や生態系の破壊といった,生活環境に係る著しい被害を受けないという地域住民の具体的利益を保護しようとするものと解される。
  尚,原告らは本件埋立地が存在することによって構成される景観について利益を有するものであるが,景観的利益については最高裁は一定の範囲で景観的利益が法的利益になり得ることを示した。本件では瀬戸内法などによって景観的利益が保護されていることを考慮すれば,その利益享受主体である原告らが原告適格を有すると考えられるのである。

第6 原子炉等規制法
1. 公有水面埋立法の趣旨は,埋立地の利用法にも及ぶこと
1) 公有水面埋立法は,昭和48年に改正され,旧法にあった追認制度(無免許で埋立を開始した者に対し,免許を受けていたと見なす)が廃止され,原状回復命令を出せるようになった。これはそれまでの高度成長期に埋立地の急拡大により沿岸海域の生態系維持能力や浄化作用の消失による公害・環境汚染,漁業被害が急増したため,埋立免許に際して環境保全に十分に配慮されているか,埋立を行わないとその土地の需要が満たされないかなど厳正に審査し,環境との共生を図った上で必要最小限の埋立を認めていくことにするためであった。

2) その改正の趣旨に鑑みれば,公有水面埋立法に言う「国土利用上適正且合理的ナルコト」「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」という要件の判断には,埋立地の利用法も含まれるものと考えるべきである。
  なぜなら,埋立地を含むその土地全体でどのような事業をする予定なのかを判断要素としなければ,その埋立が土地の需要を満たし,かつ,その埋立が必要最小限か否かが判断できず,引いては国土の適正且つ合理的利用か否か,環境への配慮・災害防止が十分配慮されているか否かを判断することは困難だからである。

2. 本件埋立事業は後の原発設置を前提としていること
1) そこで本件埋立事業における,埋立後の事業についてみると,公有水面埋立免許願書における「埋立の必要性」は,発電所設置の必要性から始まり,海水を取水,放水することの必要性から本件海域を選んだことなどほとんど埋立地の利用方法としての発電所における必要性が挙げられ,また,埋立の効果についても,電力の安定供給や,発電所の建設・運転を通じた関連工事の発注などの地域への貢献,交付金や税収による上関町への還元など,埋立事業独立の効果ではなく,埋立地の利用法としての発電所の設置の効果が問題となっており,本件埋立事業と,その後の埋立地利用方法としての発電所設置とは切っても切れない関係にある。

2) また環境保全に関し講じる措置を記載した図書は,そもそも「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」を満たすか否かを判断するために提出が義務付けられているものであるところ,その図書の内実は,環境影響の予測について「埋立工事の実施・埋立地の存在・埋立地の利用」の各段階における予測について触れられており,明らかに埋立地をどのように利用するのか,という点まで含んで評価がなされている。
  この意味でも,今回の免許申請に関し,環境保全・災害防止の必要性は,埋立工事自体のみのものではなく,埋立地の利用すなわち原子力発電所の運転までを見据えたものになっているのであるから,本件埋立免許を申請した中国電力にとっても「埋立地の利用として建設する発電所が環境に与える影響が少ない。」旨述べるのが主眼にあると言える。
  なお,図書中の「環境保全対策及び環境監視計画」においては,明確に「発電所の設置に当たっては・・・環境への影響を・・可能な範囲内で回避又は低減を図る」と述べている。

3) 他方,埋立地に建設される原子力発電所については,原子炉等規制法による規制があるが,同法は「原子炉の利用が・・・これらによる災害を防止し・・・(同法1条)」との目的があり,また,「原子炉施設の位置,構造及び設備が・・・災害の防止上支障がないものであること(同法24条1項4号)」と規定しているように,施設による災害の防止を要件の一つとしてあげている。だとすれば,公有水面埋立法においては,国土利用の適正性・合理性,環境保全・災害防止への配慮という要件を判断する際に「埋立地の利用方法」についても考慮すべきなのであるから,原子炉等規制法は,災害防止の観点について,公有水面埋立法と「目的を共通にする関係法令」であるということが出来る。

3. 原子炉等規制法における法律上の利益
1) ところで,原子炉等規制法における災害防止の目的について,判例は,高速増殖炉施設周辺住民が,原子炉に対する設置許可処分の無効確認を求めたいわゆる「上記もんじゅ原子炉事件判決」において「単に公衆の生命,身体の安全,環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず,原子炉施設周辺に居住し,右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である(最三小判平成4年9月22日)。」と述べている。

2) そして,上記無効確認を求める訴えの原告適格について「当該住民の居住する地域が,前記の原子炉事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについては,当該原子炉の種類,構造,規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものである。」との規範を示している。

3) 本件における修正
  しかしながら,上記判決は,原子炉等規制法における原子炉設置許可が正面から争われた事案であることから,原子炉の具体的な条件を考慮し,原子炉と住民居住地域との距離を中心にして判断した事案であり,本件埋立事業に関し,原子炉等規制法の趣旨目的を参酌して,公有水面埋立法によって保護される利益を考慮すべき本件とは多少事案を異にする。
  公有水面埋立法が環境保全・災害防止を要件として定めているのは,埋立免許に際して環境保全に十分に配慮されているか,埋立を行わないとその土地の需要が満たされないかなど厳正に審査し,環境との共生を図った上で必要最小限の埋立を認めていくことにするためである。そしてかかる審査において,埋立地の利用方法が評価の対象になっていることについてはすでに述べた。
 そうであるとすれば,公有水面埋立法においては,少なくとも,その対象となっている関係地域周辺に居住する者で,直接に埋立事業から,または埋立地の利用状況から,当該住民の身体・生命,住環境への悪影響,万が一の災害発生において重大な被害を被るおそれが認められる限度において保護されるべき個別的利益があるといえ,利害関係が認められるのであるから,その範囲において埋立免許の適法性につき,これを争うことが出来ると考えるべきである。
  そして原告らが,かかる個別的利益を有しているか否かは,本件埋立事業から直接的に,もしくは,埋立地の利用状況からいかなる身体・生命,住環境への悪影響,災害発生のおそれがあるか否かによるのであるから,それらを個別的に検討すること無しに,原告適格の判断は出来ないことになる。

4. 本件原告らについて
1) 本件原告中,埋立地の利用方法としての原子力発電所の危険性を考慮した場合,設置予定地から4kmほどしか離れていない祝島の住民は,そもそも発電所が設置されることで景観的利益を害され,種々の生活上の被害が起こりうることは平成21年11月24日付原告ら準備書面で述べたとおりである。また,万一の災害発生時に重大な被害を被るおそれがあることについては論を俟たない。
  したがって,別紙目録1の原告ら,そして別紙目録2の原告についても,生活の必要による海産物の採取という利益をのぞいて,保護されるべき個別的利益があることは同様である。

2) また,原子炉の万一の災害発生時に,発電所設置予定地から周辺58kmまでに居住する住民に「重大な被害を被るおそれ」を認めた上記「もんじゅ事件判決」に鑑みれば,万一の災害発生時に,長島の自然生物に対する被害は計り知れないものとなる。長島の自然を守る会及びその構成員については,長島の自然に対し,長年にわたって,自然保護観察,自然保護活動を進めてきたのであるから,本件埋立事業による生態系の変化,また,原子力発電所による万一の災害時には,上記自然の利益享有権ともいうべき権利が害されるおそれがあることは明らかである。
  さらに「上関原発を建てさせない祝島島民の会」はその構成員が祝島の住民であるから,上記祝島住民と同様の保護されるべき利益が存することは明白である。

以上

2010年3月6日土曜日

次回(第4回)公判日時

次回の公判は,6月9日,午後2時より山口地方裁判所です。
多くのご参加をお待ちしております!

山口地方裁判所は、JR山口駅を降りて徒歩3分ほどです。

2010年3月5日金曜日

第3回公判のご報告

 2010年3月3日14時より,山口県地方裁判所にて,第3回公判が行われました.
 35名を越える傍聴希望者が集まり,熱心に裁判の行方を見守りました.

 開廷前,弁護団代表の籠橋弁護士より今回の公判の概要が説明されました.
主要な争点は,やはり「原告適格」の問題です.長島・田ノ浦海岸における原発立地に伴う埋立に対して,原告がどのような利害関係を有するかということが認められなければ.訴えの利益なしとして裁判を受ける資格が与えられません.

 籠橋弁護士はこの原告の利益に関して,3つのポイントを説明されました.
 一つ目は,祝島島民の生活上の利益です.磯からの海産物を得るというだけではなく,その海辺を散策し,景観を楽しむといった利益も含まれます.建設計画地である対岸の田ノ浦は,祝島から見ると朝日が昇る場所です.鞆の浦の地裁判決にみられるように,近年,景観権をめぐる変化は著しいものとなっています.

 二つ目は,自然環境そのものがもたらす利益です.生態学者が「生物多様性のホットスポット」と絶賛する,瀬戸内海固有の希少な生態系が残される田ノ浦海岸では,その学術的な価値のみならず,長島の自然を守る会などの働きによって毎年多くの者がここを訪れ,その恵みを享受しています.かつては自然環境に対して,資源を取り出し,廃棄物を捨てるという直接的な使用価値しか認められていませんでしたが,今日では「生態系サービス」と言われるような多様な価値・便益が議論されています.

 三つ目は,原発の危険性,そのリスクによる被害です.
もんじゅの事件では,半径50㎞以内に居住する住民に原告適格が容認されているそうです.
 14時ちょうど,第3回公判が開廷されました.
 冒頭では公判の手続,次回のスケジュール等が確認され,今回提出された準備書面の説明が籠橋弁護士より行われました.
 本書面は,原告適格について,①小田急最高裁判決,②伊達火力発電所事件,③鞆の浦地裁判決などの事例,また,平成16年の行政事件訴訟法改正を受け,原告適格の基準に関する判断は徐々に拡大の傾向に有ることを主張しています.また,公有水面埋立法,環境基本法,環境影響評価法,瀬戸内海環境保全特別措置法,原子炉等規制法などの観点から,本訴訟において,原告に原告適格が在することを主張しています.

 今回は原告側の意見陳述として,祝島島民で豚牛の放牧や有機農業などの複合的な農業を営む氏本長一さんが意見陳述を行いました.氏本さんは,「生業としての農業と漁業を通して私たち島民は,山と海は不可分な関係であり,海と山からの恩恵でこれまで生きてこられたこと,これからも海と山の恩恵を受ける暮らしにこそ島の未来が開かれていることを理解しています」と述べられています.常に生き物との対話の中で暮らしておられる方独自の視点は,非常に感動的でした.
 詳しくは,意見陳述書をアップしていますので,そちらをご参照下さい.

2010年3月4日木曜日

判決文(2009.10.20,スナメリ他)

2009年10月20日,スナメリほか田ノ浦の生き物たちに対する判決が
でました.
野生動物である原告は,当事者能力を欠くとして,却下されました.
この訴訟の象徴であるスナメリたちが分離されてしまったのは大変
残念ですが,裁判はこれからです.


氏本長一さんの意見陳述書(第3回公判)

上関自然の権利訴訟 意見陳述書

祝島  氏 本 長 一 
1950年3月26日生(59歳)

 私は祝島に住む氏本長一といいます。
 私は祝島で、豚や牛の放牧、無農薬びわの栽培、甘藷など根菜類の栽培など複合的な農業で生計をたてています。
 豚や牛は遊休農地や山林に放牧しながら、島民の生活から出る食品残渣などを与えています。 また、びわの栽培や根菜類の栽培にも除草剤などの農薬はもちろんのこと化学肥料もほとんど使用しない有機的な農業です。

 私だけでなく、小さな離島・祝島の農民は、以前から化学肥料や農薬の使用を極力抑えた有機的な農業を営んでいます。
 一時の収穫を増やすために農薬や化学肥料を大量に投入すれば、遠からず農地だけでなく海を傷めてしまい、結果的に島の暮らしそのものが立ち行かなくなることをよく理解しているからです。

 過去からの長い期間、祝島ではほとんどの農民は漁業にも従事する半農半漁の生活を続けてきました。 イワシなどから作った魚粕や家畜の糞を農地の有機肥料として活用し、海や山に優しく島内完結性の高い、今日的表現では「地域資源循環型」というべき農業を営んできました。
 現在でも農地と漁船の両方を所有し、半農半漁の生活をしている島民はたくさんいます。

 生業としての農業と漁業を通して私たち島民は、山と海は不可分な関係であり、海と山からの恩恵でこれまで生きてこられたこと、これからも海と山の恩恵を受ける暮らしにこそ島の未来が開かれていることを理解しています。
 それゆえに島民は、海と山を守り次世代に伝えることは全島民の共通責任だと考えています。

 島民が海と山~地域の自然に畏敬と感謝の気持ちで関わってきたからこそ島民社会が持続力を失わなかったことは、「神舞」という神事が千年以上の長期にわたって島内に伝承されているという事実がよく表しています。

 このような農水産業の在りようこそが、祝島という小さな離島だけでなく、日本という大きな離島でも本来めざすべき農水産業のはずだという確信をもって、私は祝島で農業を営んでいます。

 そのかたわら島内の仲間とともに、一流の離島をめざす『祝島未来航海プロジェクト』という地域興しの活動に取り組んでいます。
 その活動の一環として、一昨年3月には自治会に働きかけて「自治会生態系保全規則」を制定しました。 
 島内に現存していない動植物の持ち込みを自主規制し、島民の義務として島の生態系を保全することなどが盛り込まれていて、自治会レベルでは全国初の規則とのことです。

 この「自治会生態系保全規則」制定の目的は、祝島という小さな離島の存立基盤は豊かな自然環境にあること、その自然環境を守ることは島民のいのちと暮らしを守ることと同義であることを島民自らが再認識するとともに、島外の人々に対しては島民の総意として意思表示することでした。

 その観点からも、祝島の目の前で強行されようとする上関原子力発電所建設とそれを前提とした田ノ浦湾の埋め立ては、原発の放射能の危険性以前に、原子炉冷却用温排水の周辺海域への大量放水も含めて、なにより現存する田ノ浦湾やその周辺の動植物の生活を完全に無視するものです。
 それは祝島を取り巻く海や山の生態系に深刻な影響を及ぼし、漁業のみならず無農薬を主体とする農業にも重大な懸念が生じることにほかなりません。
 そのあとに控える上関原発建設も含めて、現在の島民のいのちと暮らしだけでなく、島の将来までをも深刻な脅威にさらすもので、私にとって到底容認できるものではありません。

 私は、一旦損なってしまうと修復が不可能な生態系や生物多様性を壊してまで田ノ浦湾を埋め立てたり、子や孫は言うに及ばず幾世代もの子孫に放射性廃棄物の処理負担を押し付けながら、原発の電気に支えられた利便性を享受することに、次世代の人々に対し強い罪悪感を禁じえません。

 スナメリやカンムリウミスズメは、瀬戸内海にいのちを委ねて暮す私たち島民にとって大切な仲間であり、暮らしの豊かさ~クオリティ・オブ・ライフの重要な指標であり、人間の傲慢さを戒めてくれ、生態系の一員として生きるための謙虚さを教えてくれる大切な教師でもある、かけがえのない存在なのです。

 今回の埋め立て認可は、法人としての県が、多数の人間の利便性のためには小さな離島の少数住民や何種類かの動植物の生存権など、少々の犠牲は止むを得ないという切捨ての考えに立っていると受け止めるほかなく、その傲慢で想像力に欠けた人間性の感じられない県に「住みやすさ日本一の元気県づくり」を託す信頼感は微塵も湧いてきません。

 現在、人間の経済活動や生活行動と自然環境との関わりを「生物多様性」という視点でとらえることが世界的に大きな潮流となってきていますが、この「生物多様性」と「生態系」は表裏一体の概念です。
 図らずも今年10月の名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に向けて、先般日本政府は「生物多様性を2020年までの短期目標として現状より減少させず、2050年までの中長期目標として現状より増加させる」と公表しました。
 しかしながら瀬戸内海の田ノ浦湾では今日も、政府の生物多様性行動計画と完全に相反する生物多様性を否定する埋め立て工事が続いています。
 そして残念ながら、現行の国の法律や県の条令はこのような生物多様性や生態系を損なう行為に対し極めて寛容で、私が期待する被害の予防的抑止力を持ちえていません。
 それでもなお、埋め立てに反対する私たちが、このような立ち遅れた法的枠組みのもとであっても裁判に訴えるのは、この田ノ浦湾の埋め立て認可の理不尽さを正すことが、私のいのちだけでなく、私とともに暮す家族、私にいのちを託してくれている家畜たち、私のまわりの動植物すべてのいのちがかかっている、一人の人間として決してあきらめてはならないことだと確信しているからです。

沢村和世さんの意見陳述書(第2回公判)

陳述書


                           沢村和世

 私は下関市の住民で、沢村和世と申します。
 1941年(昭和16年)、5歳のとき両親の事情で下関市に移り住み、以来68年間ずっと、この地におります。
 下関はご存知の通り、周防灘、関門海峡、響灘に面しています。海への思いは一入のものがあります。
 その、響灘に面する豊北町に原発計画が浮上したのが1977年でした。幸いその時は、海を守る漁師さんたちの一致団結した気概でこの計画は葬られましたが、私はこのときから
 原発反対への思いがいっそうつのり、その思いは上関原発を建てさせてはならないという思いへとつながりました。

 下関は瀬戸内海の西の口です。その地の住民として、世界でもたぐい稀なほど、美しく恵み豊かなこの瀬戸内海の、西の口にしっかり位置している誇らしさを思います。そしてこの瀬戸内海のまわりで、何らかの恩恵を受けながら生活している3千万人もの人々に思いを繋げます。
 私の目にする関門海峡の潮流、航行する船の姿は、何十年後の人の目にも変わらないでしょう。瀬戸内海の、海も、島々の姿も、大きくは変わらないでしょう。
 しかし、この、目に入る姿は変わらなくても、目に捕まえられないところで、少しずつ、少しずつ、薬害で熱害で海が変質し、生き物が消えたなら、その時代に生きている人たちが、振り返って、「ああ、あの時の・・・」と、瀬戸内海に原発が建てられた時のことを悔やんでも、もう、取り返しがつきません。
 私たちは今、その岐路に立たされています。

 海の生き物が汚染されたり消えたりするということは、人間も生活できない、ということになります。それは、何十年後、何百年後もそうですが、「今」の問題でもあります。原発が建てられようとするその前に、すでに、埋め立てによる海の汚濁、騒音、砂浜を埋めてコンクリートに変えることによる生態系の破壊、その延長にある漁業の破壊は、容易にイメージされることです。
 その埋め立ての後に来るものが、この閉鎖海域を間断なくおそう、化学薬品、放射能を含んだ温水の垂れ流しであるならば、もう、完全に瀬戸内海は死にます。

 ところで、「瀬戸内海環境保全知事・市長会議」というものがあります。瀬戸内海周辺31の府・県・市が加わっており、今年はその39回目の年次総会が京都でありました。もちろん山口県も、下関市もその一員です。
 そうしたところで、「藻場、干潟、砂浜の保存」が書類に留められながら、上関では、せっかくの砂浜をコンクリートに変えようというのです。
 環境政策よりも、開発経済優先政策がいまだにまかり通っているのでしょうか。
 山口県が許可するに際し、田ノ浦の木の伐採は「森林法」に、また埋め立ては「公有水面埋立法」に叶っているからということですが、祝島の漁民がこの海域で漁をして生活を立てることが出来なくなることは、「最高法規・日本国憲法」に照らしてどうなるのかが問われると、私は思います。

 以上で私の陳述を終わります。

高島美登里さんの意見陳述書(第1回公判)

陳述書


                         2009年8月19日
                         山口県防府市下右田287-14
                             長島の 自然を守る会 
代表   高島美登里

 私は原告団体である長島の自然を守る会代表の高島美登里です。長島の自然を守る会は1999年9月に発足しました。発足のきっかけは中国電力が行った環境影響評価準備書の不備に端を発します。公告縦覧で眼にした準備書は、地元の人が日常的に目撃していたスナメリについての記載が一切ないなど、素人眼にも大変お粗末な内容でした。私たちは生態系全体の把握や保全対策など、より高い精度が要求される新アセス法に基付いて環境アセスメントをやり直すよう、中国電力に求めました。一方で事業者に任せてはおけないので、専門家の指導を仰ぎながら独自調査を行ってきました。10年間の調査回数はのべ189回、参加人数はのべ1,611人、指導を仰いだ研究者は67人にのぼります。その結果、スナメリやナメクジウオが健全に生息しており、高度経済成長期の埋立てや海砂採取によって失われた、瀬戸内海の生物多様性を残す唯一の場所であることがわかってきました。また、世界的に珍しいヤシマイシン近似種やナガシマツボの生息確認に加え、IUCN(国際自然保護連合)指定の絶滅危惧種であるカンムリウミスズメの繁殖可能性も指摘されるなど、専門家からも「世界遺産に匹敵するホットスポット」と絶賛される地域であることが明らかになっています。このことは既に日本生態学会中国四国地区会の論文集や日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会の保全要望決議などでも述べられています。

 さらに最近の調査研究で、里山から海岸まで人工物がないという自然のつながりが、1日最大700mm.もの湧き水のあふれる入り江を形成していることも解明されました。このような入り江は、現在では瀬戸内海に数箇所しか残っておらず、魚たちの産卵や稚魚を育てる場所として利用され、豊かな漁業資源を支えています。

 では、誰がこの豊かな自然を守ってきたのでしょうか。その答えは祝島の人たちの暮らしぶりに象徴されると言っても過言ではないでしょう。「採りすぎず、作りすぎず」という自然と共に生きる生活の知恵です。埋め立て予定地からは祝島に沈む夕陽を見ることが出来ます。逆に祝島から見ると埋め立て予定地に朝日が昇ります。島の人たちは毎朝、1日の無事を祈って朝陽に向かって手を合わせるそうです。つまり長島と祝島は自然環境においても暮らしにおいても一体なのです。ですから、祝島の人たちは、中国電力が環境アセスメントで祝島を調査対象からはずしたことに、強く抗議してきました。

 ところが、中国電力は、公有水面埋立免許願書提出にあたり、欠陥だらけの環境影響評価書を丸ごと引き写したのです。そして山口県知事は免許を交付してしまいました。工事目的である原子炉設置許可申請も出されていない段階で、どうしてそんなことができるのでしょうか。山口県知事自ら上関原発計画を国の電源開発基本計画に組み入れる際、「予定地は自然の宝庫との評価も得ている」ので環境保全に十分留意するよう、付帯意見を述べています。もし、このまま埋め立てが強行されれば、長島の素晴らしい自然環境と生態系はすべて失われてしまいます。トキや日本オオカミの例でも明らかなように一度失った自然は二度と戻ってきません。田ノ浦を埋め立てれば、瀬戸内海の生物群集を再生させる原資(ストック)となるべき個体群のセットは、すべて地球上から抹殺されてしまいます。対岸の祝島の人たちのくらしはどうなるのでしょう?漁場を奪われ、1日のうちでもっとも敬虔な祈りの瞬間(とき)も奪われ、くらしも心の支えも奪われてしまいます。

 21世紀は環境の世紀と言われます。時おりしも来年は生物多様性条約締約国会議が名古屋で開催されます。そんな時にこんな暴挙を許せば、日本は世界中に恥辱を晒すことになります。有明海の環境保護に一生をささげられた山下弘文さんが長島を訪れ、「この自然は過去からの預かり物だ。我々は未来の子供たちにそっくり引き渡す義務がある。」と言い遺されました。私たち人間は自然の一部であること、自然によって生かされていることを思い出すべきなのではないでしょうか。そして、生きものたちの声なき声に耳を傾けるべきではないでしょうか。

 1週間前に田ノ浦の海底調査で3年ぶりにナメクジウオを採取しました。また3日前にはカンムリウミスズメにも出会いました。通常だと一番会える確率の少ない時期なのです。私には、彼らが「どうか、長島の自然を守ってください。それがあなたたちのためでもあるのですよ!」と言っているように思われて仕方ありません。今回は長島を象徴する6種類の生き物たちに原告として登場して貰いましたが、彼らはすべての生き物の声を代弁しているのです。

 昨日、1通のお便りを頂きました。「原告になりたかったけれど、原告費用が払えず残念です。でも、裁判がいい方向に進むように傍聴席で見守っています。」というものでした。私たちも長島の自然を守り、共に生きたいと願うすべての人たちの声を代弁していることを申し添えます。

 山口県知事が公有水面埋め立て免許を取り下げるよう、法の判断が下されることを願ってやみません。

中村隆子さんの意見陳述書(第1回公判)

陳  述  書

平成21年8月19日
山口県熊毛郡上関町大字祝島315番第3地
中 村  隆 子

 私は、本訴訟の原告になっている中村隆子です。昭和5年3月30日、朝鮮全羅南道で生まれましたが、終戦後引揚者として祝島に帰り、いらい79歳になる今日までずっと祝島で生活をしています。祝島で結婚し、6人の子供を夫と一緒に『ほこつき』という漁業をしながら育て上げ、夫の亡くなった今も祝島で生活を続けています。今は、盆や正月などに成長した子供達が孫を連れて帰ってくるのを楽しみにしていますし、子供達のつれあいもみんな祝島のことを好いてくれており喜んでいます。

 また、原発問題が起こった当時から祝島婦人会の副会長をしており、平成8年からは祝島婦人会長として、島の生活改善などに取り組んでいます。

 祝島は、上関原発建設予定地から西に4キロしか離れていない現在人口500人程度の瀬戸内海の離島です。島では農業・漁業が中心ですが、最近では自然豊かなきれいな海で育った海産物や無農薬の農産物を活用した加工品つくりにも力を入れるとともに、島特有の歴史・伝統文化、豊かな自然景観などを活かした観光面での取り組みも進んでいます。

 しかし今、祝島の集落の前に、また私の家の窓から直接真正面でしかも毎日朝日の昇る位置に、原発がつくられようとしており、またそのために自然豊かな対岸の海が埋め立てられ、海が汚されようとしています。

 夫と共に働き、6人の子供を育てあげた『ほこつき』は別名で『いさり漁』とも言われますが、船の上から海に箱メガネをつけて、それで海の底にいるアワビ・サザエや魚を、長いさおの先につけてあるほこで突き刺してとりあげる漁法です。何にも増して澄んだきれいな海でないと仕事にはなりません。

 今まで、きれいで豊かな自然の恵みを受け、生活をしてこれたし、これからもずっと島で生活していく私たちにとって、原発のために埋め立てを行って海を汚されることは、島で生きていくためには死活問題であり、絶対許せるものではありません。

 このたびの、山口県・知事の交付した公有水面埋立免許は、過去から未来につながるはずの、離島での生活がきわめて困難になる結果をもたらします。

 中国電力による原子炉設置許可申請がいまだ出されておらず、しかも祝島島民をはじめ多くの人達の反対の声がある中で、どうして埋め立てを許可するのか山口県・知事の姿勢に大きな怒りを覚えます。

 県民の命と生活を守るべき立場であるはずの山口県・知事は、金と力を持っている事業者のほうを向いているとしか思えません。

 「住みよさ日本一の県」を目指している山口県・知事が、どうして県内に「住みにくさ日本一」になりかねない地域が出来ることに「協力」するのか不思議でたまりません。

 あらためて、山口県・知事が埋め立て免許を取り消すことになるよう、心から願っています。

自然の権利訴訟 訴状

訴状

山口地方裁判所  御中

           平成20年12月2日  
               原告ら代理人
弁護士  籠橋隆明
弁護士  吉江仁子
弁護士  西川研一
弁護士  小島智史
弁護士  赤津加奈美
弁護士  只野 靖
弁護士  泉 武臣
当 事 者 の 表 示
1. 原告
  山口県熊毛郡上関町大字長島地先、田ノ浦湾
        原告    スナメリ 
  山口県熊毛郡上関町大字長島地先、田ノ浦湾
        原告    カンムリウミスズメ 
  山口県熊毛郡上関町大字長島地先、田ノ浦湾
        原告    ナメクジウオ 
  山口県熊毛郡上関町大字長島地先、田ノ浦湾
        原告    ヤシマイシン近似種 
  山口県熊毛郡上関町大字長島地先、田ノ浦湾
        原告    ナガシマツボ 
  山口県熊毛郡上関町大字長島地先、田ノ浦湾
        原告    スギモク
  山口県防府市仁井令町20-11-B101
        原告    長島の自然を守る会 
                右代表者
                高島美登里 
  山口県熊毛郡上関町大字祝島218番地
        原告    上関原発を建てさせない祝島島民の会 
                右代表者代表運営委員
                山戸貞夫 

その余の原告、別紙当事者目録記載のとおり

2. 原告ら代理人
  〒 453-0051
    名古屋市中村区椿町15番19号 大和生命ビル2階
    T.052-459-1750 F.052-459-1751
        原告代理人
        弁護士    籠橋隆明 (主任)
        弁護士    吉江仁子 
        弁護士    西川研一 
        弁護士    小島智史 

  〒 530-0047
    大阪府大阪市北区西天満2-6-8 堂島ビルヂング618
    弁護士法人赤津法律事務所
        弁護士    赤津加奈美 
  〒 160-0022
    東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階
    東京共同法律事務所
        弁護士    只野 靖 
  〒 812-0044
    福岡県福岡市博多区千代4-31-7 九県前ビル3階
    九州合同法律事務所
        弁護士    泉 武臣 

3. 被告
    〒753-8501
    山口県山口市滝町1番1号
        被  告   山口県知事  二井関成

公有水面埋立免許処分差止請求事件

 訴訟物の価格   金1、600、000円
 貼用印紙額    金   13、000円
 予納郵券額    金   10、000円
請  求  の  趣  旨

1 被告山口県知事が平成20年10月22日に中国電力株式会社に対して行った公有水面埋立法第2条第1項に基づく、山口県熊毛郡上関町大字長島地先の公有水面埋立て事業の免許(指令平20港湾第442号)はこれを取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。


請  求  の  原  因
第1 「自然の権利」訴訟
  本件は長島の自然を守る「自然の権利」訴訟である。

1. 「自然の権利」においては自然は当然に価値があると考える。地球上の全ての生物、非生物は相互に密接に関連しており、人間とて例外ではない。現実に、人間は自然より物質的、文化的、生物学的な資産を得てきたし、今後も必要とする。最近の研究によれば人類の文明史は自然環境と人間社会との相互関係に密接にかかわっていることが証明されつつある。「人類の歴史も根本の部分は生態学的法則に握られている。」といっても過言ではない。そもそも人も自然の一部であり、進化の過程で出現してきたことを考えれば、人と自然との結びつきは人が人であるための当然の前提であり、人の価値を認めるのであれば当然それに連なる自然にも価値があるとしなければならないのである。こうした、関係性の系として自然のあり方を考えれば自然は生態系として保全、保護されなければならないことは明らかである。

2. ところで、現在社会では人類は地球という惑星全体に大きな影響力を与えるまでになっている。人間の影響により多くの野生生物種が絶滅しつつあり、「人類が、自然の損耗をはるかに上回る速度で、そして自然のプロセスによって新しいもので置きかえられるよりずっと早い速度で、生物種の個体群を絶滅に追いやりつつあるということが明らかになりつつある。」種の絶滅が人類にとって深刻な影響をもたらすことは今日では国際的な共通認識となっている。このような現象は我が国では特に深刻である。多くの里山や海岸が破壊され、メダカなどの普通と思われていた野生生物が絶滅の危機に瀕している事実を目の当たりにするとき、我々は危機の深刻さに驚かざるを得ない。

3. 自然が自らの保護を訴えることはあり得ない。自然の価値は代弁されることによって初めて保護される。「自然の権利」とは人が自然の価値を代弁することを言う。それは人の防衛行為であり、自然の利益を享受したいという人の権利行使でもある。それは自然保護政策にかかわる民主主義的な参加の利益でもある。以上から、「自然の権利」とは、人が自然生態系の立場に立って、自然の価値を代弁することが必要であり、そのような人の権利があると主張するのである。本件では野生生物が原告として表示されているが、野生生物は長島の豊かな自然生態系の象徴であり、別紙1及び2の原告らが野生生物を代弁して「自然の権利」を行使している関係を示しているものである。

第2 当事者
1. 自然物たる原告
 ① スナメリ(Neophocaena phocaenoides)
   スナメリ(砂滑)は、クジラ目ハクジラ亜目ネズミイルカ科スナメリ属に属する小型のイルカである。生息域の北限は日本の海域である。スナメリは水産資源保護法では保護動物に指定され保護されている。
 ② ナメクジウオ(Branchiostoma belcher)
   ナメクジウオは、脊椎動物に最も近縁な動物群(脊索動物門頭索動物亜門)に分類される脊索動物である。脊椎動物の最も原始的な祖先であると考えられ、生きた化石として知られている。
 ③ カンムリウミスズメ(Synthliboramphus wumizusume)
   カンムリウミスズメ(冠海雀)とはチドリ目・ウミスズメ科に分類される鳥類の1種である。体長は25cmほど。夏羽では頭と喉、腹が白く、他は黒い。名のとおり頭に黒い冠羽がある。冬羽になると冠羽がなくなり頭も黒くなって、近縁種のウミスズメに似る。国の天然記念物で環境省レッドリスト絶滅危惧II類(VU)である。
 ④ ヤシマイシン近似種(Tomura sp.)
   本件開発区域にはカクメイ科の貝であるヤシマイシン近似種が生息する。これは腹足綱(巻貝類)の進化において非常に重要な貝類であり、世界的にも貴重な種となっている。
 ⑤ ナガシマツボ(Ceratia nagashima)
   本件開発区域にはワカウラツボ科の貝であるナガシマツボが生息する。ナガシマツボはその学名、和名が示すように上関町長島の四代田ノ浦をタイプ産地(新種記載に用いられたホロタイプ標本の産地)とする種で、長島をタイプ産地とする唯一の生物である。これまで、長島以外からの発見例はない。
 ⑥ スギモク(Coccophora langsdorfii)
   スギモクはホンダワラ科の杉の葉に似た海藻で、主に日本海側に分布する。瀬戸内海での発見は数例で、分布南限域にあたる。

2. 別紙目録の原告ら
1) 別紙目録1の原告
  原告らは祝島島民である。
2) 全原告について(別紙目録1及び同2の原告)
  原告らは別紙物件目録の事業によって、本件事業区域の自然の利益を享受し、観察し、保全・保護活動している者である。また、本件原子力発電所が事故を起こした場合には放射能などにより深刻な被害を受けうる地位にある者である。
3) 原告長島の自然を守る会は山口県防府市仁井令町20-11-B101に事務所を置き、長島の自然環境・生態系の保全・保護を目的に下記の活動を行っている。
 ① 長島の自然環境・生態系を明らかにするための研究・調査活動
 ② 長島の自然環境・生態系を保全・保護する社会的活動
 ③ 長島の自然環境・生態系を保全・保護する普及・宣伝活動
 ④  その他、上記目的に添うあらゆる活動を行う。
  この会は総会を最高意思決定機関とし、代表、副代表、事務局長、事務局次長、幹事、会計監査からなる役員が日常業務の意思決定を行う。代表は会を代表し、組織を統轄する。
4) 原告上関原発を建てさせない祝島島民の会は住所地に事務所を置く、権利能力無社団である。同団体は上関原発に反対し、祝島の自然と文化を守るために結成された。

3. 被告
  被告は山口県における、公有水面埋立法上の公有水面埋立免許権限(法2条1項)を有する者である。

第3 本件事業等
1. 本件事業は次の通りである。
事業者 中国電力株式会社
名称 上関原子力発電所
設置場所 山口県熊毛郡上関町大字長島及びその地先公有水面部
用地面積 約160万平方メートル
敷地(整地)面積 約33万平方メートル
冷却水量 毎秒190立方メートル(2基運転時)
取水方式 深層取水
放水方式 水中放水
営業運転開始時期
【1号機】平成26年度(予定)
【2号機】平成29年度(予定)
  
2. 本件免許
1) 本件事業に伴う公有水面埋立区域について、中国電力株式会社(以下「中国電力」という)は平成20年6月17日付けで被告山口県知事に対し、公有水面埋立免許願書を提出した(以下埋立免許のことを本件埋立免許という)。
2) 被告知事は平成20年10月22日に本件事業に伴う公有水面埋立について、公有水面埋立法第2条第1項、同法13条に基づき免許した(指令平20港第442号)。

第4 本件予定地など 
1. 本件発電所の建設予定地は、山口県の南東部にあたる山口県熊毛郡上関町大字長島の最西端に位置し、瀬戸内海に面している。
  本件発電所敷地は、発電所本館などの本体設備、取放水設備、開閉所等の発電設備ならびに管理事務所、倉庫、貯水槽などの付帯設備および取付道路等の設置に必要な範囲を確保する計画としている。
  その発電所の敷地面積は、約137万平方メートルである。

2. 瀬戸内の特性
1) 瀬戸内の構造
  瀬戸内海は公有水面2万3203km3 平均水深38mの我が国最大の内海であり、その多くが瀬戸内国立公園に指定されている。沿岸部には大小の瀬戸、湾、岩礁があり、1000余りの島嶼を含んでいる。各海岸、島々の間には「灘」と呼ばれる広大な浅瀬が広がっている。両端が開かれているとはいえ、瀬戸内海は閉鎖系水域であり、しかも潮流が早い特徴を持っている。また、内海であるため太平洋の荒波を受けることもない。このような瀬戸内海特有の構造に応じて、独自の生態系、独自の文化が発展してきた。
2) 瀬戸内の生態系の特性
  内湾域(半閉鎖水域)は、一般に、生物生産力が高い場所であるが、瀬戸内海は、日本の沿岸海域中、最大の生物生産力を有する海域である(青山、 1977)。伝統的に主なタンパク源を魚介類に依存してきた日本人にとって、瀬戸内海は、天然の「食料庫」として特に重要であった。また、その高い生物生産力によって水域の富栄養化物質が除去される「水質浄化作用」の場としても重要な役割を果たしている。
  加藤真(京都大学大学院)によると、ナメクジウオ、イカナゴ、マダイ、アビ類、スナメリが形作る食物連鎖が瀬戸内海の生態系の特徴であるという。上記のように瀬戸内海は灘と呼ばれる広がりと瀬戸と呼ばれる潮通しの良い海峡部が複雑に入り交じり、多様性の高い環境を作りだしている。
  潮通しのよい瀬戸部の周辺には砂が堆積し、アマモなどの多くの藻場が干潟と連続していた。ナメクジウオは砂地の生物の典型であり、イカナゴは砂地や藻場と密接に関連した魚である。イカナゴはマダイなどの大型魚類や、アビなどの海鳥、スナメリなどの海洋ほ乳類の餌となっている。瀬戸内の漁師はアビ類、スナメリを目印に漁業を営み、マダイなどをねらっていた。こうした「灘」と「瀬戸」が織りなす生態系が瀬戸内の生態系である。
3) 瀬戸内の文化的特性
  魏志倭人伝の記述や記紀の記述を引くまでもなく瀬戸内は古来より畿内と九州地方、さらには朝鮮半島、中国とを結ぶ海上交通路であり、我が国の文化的形成に重要な役割を果たしたことは論を待たない。
  また、多数の島嶼からなる風景は、「わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地」(瀬戸内海環境保全特別措置法3条)とされ、多くの文化、芸術の対象ともなってきた。瀬戸内海国立公園は、昭和9年に雲仙や霧島とともに我が国で最初に国立公園の一つとして指定された。

3. 瀬戸内海における環境破壊
1) 瀬戸内海沿岸部には多くの工業地帯を抱え、工業、人工の負荷は瀬戸内の自然を瀕死の状態に追いつめてきた。自然海岸は人工海岸にかわり、内海の水質は著しく悪化してきた。こうした事態を受けて、瀬戸内海環境保全特別措置法は瀬戸内海のすぐれた自然環境が「国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであることにかんがみ」制定された。
2) しかし、瀬戸内海環境保全臨時措置法施行(昭和48年11月2日)後、平成9年11月1日までの間に4、131件、総面積10、592haの埋立が免許または承認されており、瀬戸内海海岸部の人工化は進んでいる。
  生物相の貧困化も同様に深刻である。広島県三原市幸崎町有龍島はナメクジウオ生息地として、呉市豊島・斎島近海はアビ渡来群游海面として、竹原市高崎町はスナメリの回游海面としてそれぞれ国の天然記念物とされているが、今ではこれらの生物の姿はここではほとんど見られなくなっている。
  そのような状況下で、本件当該地域である瀬戸内海西部(周防灘)は、今に至るまで、本来の豊かな内湾環境を最もよく保持している。日本の他の海域で姿を消した「絶滅危惧種」(小さな貝類やナメクジウオのような生物から、スナメリのような海生哺乳類まで)が、この海域で多数見つかっているのは、そのことをよく表している。

4. 本件開発区域の特徴
1) 本件開発区域は室津半島先端部にある長島最西端、田ノ浦に位置する。三方の海は周防灘、伊予灘に接しており、長島西側には祝島が浮かんでいる。海岸、海底のほとんどは礫と砂で構成されており、沖合に向かって緩やかに傾斜している。海岸の人工化は進んでおらず、瀬戸内の原風景を維持した景観となっている。開発区域は瀬戸内海国立公園の一部であり、周辺部も大部分は普通地域となっているが、第2種特別地域が存在する。
2) 田ノ浦は、小さな湾に面した、波当たりのおだやかな浜で、その潮間帯には、この地域に固有の種を含む非常に特徴的で多様な生物群集が見られる(福田2001)。田ノ浦にはまた、瀬戸内海沿岸では極めて少なくなってしまった手つかずの海岸植生が残されている(安渓・野間 2001)。浜の中央部にコンクリートの堤防が建設されてはいるものの、その堤防の両側には磯から砂浜・礫浜を経て照葉樹林に至る自然のままの連続した海岸植生帯が残されている。一方で、田ノ浦周辺の森林のほとんどは二次林であり、それは、薪を採るために地域住民が長い間利用してきたことで成立したものである。海中のみでなく陸上においても、自然の恵みを住民が享受する関係が持続していた。このことは、四代地区共有地や四代八幡宮所有地をめぐる訴訟の審理でも明らかにされた。
3) この海域には、ガラモ(ホンダワラ類)が茂る磯があり、ナメクジウオやイカナゴが生息する浅瀬の砂地があり、アビ類が飛来し、スナメリが繁殖している。また、岩礁地帯にはタイドプールが点在し、生きた化石といわれる腕足類カサシャミセンや原始的な巻貝ヤシマイシン近似種が生息している。ヤシマイシン近似種が属するカクメイ科の巻貝は、本件海域近郊の島々に見つかっているが、どの島でも固有の種がいると考えられており、本海域のヤシマイシン近似種はこのタイドプールでしか見つかっていない貴重なものである。本件地域は瀬戸内の代表的自然生態系が残されている地域となっている。
4) 豊かな自然を残した長島周辺は、豊かな文化を残している区域でもある。
  祝島は、波高い周防灘の東端に位置するため、古来行き交う船の航行安全を守る神霊の鎮まり給う島として崇められてきた。このことは都にも広く知られていて万葉集にも登場する。
    草枕旅行く人を
    いはひ島
    幾代経るまで斎ひ(いわい)来にけむ   (万葉集 三六三七)
  祝島の「祝」という語は古代以来の神職の名称の一つ、”ほうり”に由来するとも言われ、祝部とも称した。その祝部のいる島が、祝島と呼ばれるようになったとも言われる。祝島から姫島、国東への航路が先史・古代における畿内から九州へ渡る主要な、かつ最短コースであって祝島はその最後の中継的寄港地であり、航海の平安を祈る為の島であったと思われる。
  このように文化的にも本件区域は瀬戸内を象徴する区域なのである。

第5 本件の経緯
1. 本件の経緯
1) 昭和63年9月に上関町は、中国電力に対し、本件上関原子力発電所の誘致を申し入れた。その後、中国電力により立地環境調査などが実施されるとともに、関係漁協などとの協議が始まった。
2) 平成12年4月には中国電力は四代漁協・上関漁協・共第107号共同漁業権管理委員会と漁業補償契約を締結した。
3) 平成13年6月には経済産業大臣は、上関1、2号機を組み入れた電源開発基本計画を決定した。
4) 同月中国電力は環境影響評価書を経済産業大臣に届出し、平成13年7月 経済産業大臣は中国電力に対し、環境影響評価書について、変更の必要がない旨を通知した。
5) 平成16年10月には四代八幡宮所有地の売買契約を締結し、発電所敷地造成区域内の土地売買契約を終了した。
6) この土地については売買契約の有効性をめぐって係争中である。
7) 平成16年11月 ボーリング調査など詳細調査計画を取りまとめ山口県、上関町に計画を説明、平成17年4月 詳細調査(陸上ボーリング)を開始した。
8) 平成20年6月17日付けで被告山口県知事に対し、本件公有水面埋立免許願書を提出した。
9) 被告県知事は平成20年月7月15日には、「公有水面埋立免許願書」の縦覧を始めた。

2. 詳細調査
1) 中国電力は現在、「原子炉設置許可」の申請に必要なデータを得るために上関原子力発電所(1、2号機)建設に伴う詳細調査を実施している。詳細調査は陸域、海域の2つの区域に分かれて実施されている。「原子炉設置許可」を得るために必要な調査であるから、調査の結果によっては設置許可が得られないこともあり得るものである。
2) 詳細調査では、海域、陸域とも、現在、ボーリング調査などが実施されている最中であり、終了していない。詳細調査中最も重要なものはボーリング調査であるが、ボーリング調査ではボーリング機械により地盤を構成する岩石などを棒状のコアとして連続的に採取し、これを観察するとともに種々の試験を行うというもので、自然環境に与える悪影響も大きい。

3. 本件環境影響評価手続きの経緯
1) 本件開発に先立ち平成7年4月ころから環境影響評価調査が実施され、平成13年7月には上関原子力発電所(1、2号機)環境影響調査書」が作成された。
2) 同評価書を中国電力は平成11年4月に通産大臣に提出したが、これは、大型事業でありながら環境影響評価法施行前に作成されたものである。そのため同法の定める「方法書」の作成がなかった。「方法書」は、対象事業に係る環境影響評価(調査、予測、評価)をおこなう方法の案について、環境の保全の見地からの意見を求めるために作成する文書である。その手続きを欠いたため、「生物多様性を有する豊かな自然環境の地であることから、環境の科学的な把握と保全に万全を期すこと」という山口県知事意見が出され、新法の観点にたつ追加調査が必須であるとする環境庁長官意見、通産大臣勧告が出された。
3) これらを受けて、中国電力は、平成12年1月から10月をめどとして追加調査を実施した。その調査方法は「これまでに実施した調査法と同一」とされており、上記の希少生物の保全に役立つ追加調査にはならないことが強く危惧されていた。
4) 平成12年10月18日、中国電力は「上関原子力発電所(1、 2号機)に係る環境影響調査中間報告」を通商産業省に提出した。
5) 通産省は環境審査顧問会・原子力部会を同年11月9日に開催し、その内容を了承した。さらに山口県知事は、平成13年1月29日付けでこの中間報告書においては、「平成11年11月25日付けの知事意見は、基本的に尊重されている」との見解を経済産業省資源エネルギー庁あて送付した。
6) 平成13年7月17日から平成13年8月16日にかけて評価書は縦覧され、環境影響評価手続きは終了している。

第6 自然保護についての基本的考え方
1. 公共的信託
  公有水面は自然公物としてひろく公衆の用に供せられるべきものである。民主主義下にあっては、政府は自然公物の管理を国民から委託されたものと考えるべきである。自然物は自然のままで利用、保全されることがその最有効利用とされるべきで、原則として改変は許されないと考えるべきである。それは、自然自体が長い進化の歴史や人類の歴史的過程で形成されてきたものであり、ひとたび破壊されればその回復は容易ではないという経験則に基づいている。自然や文化は本来次世代に引き継ぎ、持続的に利用されることこそが自然公物の管理者に求められることであって、一時の利益のために破壊、消費することは許されない。
  世界人口が急速に増加している現在、食糧を安定に供給してくれる生態系の保全は、人類の生存のために何よりも重要である。海の生態系によってもたらされる水産資源(魚介類)は、人類にとって最も重要なタンパク源の一つであるが、近年、世界的に枯渇しつつある。日本では、近年の資源減少に伴う沿岸漁業の衰退が著しく、過去40年間に魚介類の自給率は大きく低下した(供給熱量ベースで、1965年の110%から2005年の57%へ)。長期的な視点から日本の食料庫を守るという意味において、内湾環境の保全とそこでの漁業の復興は極めて重要である。とりわけ、現時点で生態系がよく保存されている瀬戸内海周防灘は、本来、徹底した環境保全策がとられるべき場所である。

2. 予防原則
1) 生物の多様性と予防原則
  また、自然生態系自体、科学的に解明されておらず、いかなる人為的影響がいかに自然生態系に対して影響を及ぼすか、ひいては人の生活にどのような影響を及ぼすかについては未解明部分が余りにも多い。こうした自然生態系に対する科学的態度からすれば、人為的影響は抑制的であるべきである。このような対応は予防原則として広く国際的に承認された原則であり、我が国の自然保護政策の原則でもある。こうした、予防原則からすれば、自然環境は原則として、改変を許さず、自然は自然のままで利用することこそが、人にとって最良の利用であり、管理であると考えるべきである。
2) 原子力発電と予防原則
  従来の日本の原子力発電所は、すべて、外洋的環境に立地しているが、今回の計画は、初めて、内湾奥部に立地するものである。内湾の沿岸域は、多くの水生生物種の産卵、保育の場所としてとりわけ重要であり、しかも、当該海域は、瀬戸内海という本来日本最大の生物生産力を有する内湾である。
  本件の原子力発電所の計画は、現時点で生態系がよく保存されている瀬戸内海周防灘の「心臓部」を埋め立て、恒常的に海水を取水排水することによって海洋生態系に大打撃を与える可能性がある(詳細は後述)。また、当該海域が半閉鎖海域であるために、事故発生の折には、たとえそれが小規模なものであっても、放射能汚染が滞留しやすく、それによって、漁業がほぼ永久に壊滅する恐れがある(風評被害なども起こりやすい)。
  このようにあまりにも大きなリスクが存在する場合には、「予防の原則」に則って、当該の開発計画を見直すべきである。一般に、自然の生態系については科学的に未解明の部分が多いため、開発に伴う悪影響の程度を事前に正確に予測することは難しい。したがって、大きなリスクが存在する場合には、災禍を未然に防ぐことを優先し、開発によって「起こりうる」最悪の事態を想定し、対処を考えるというのが、「予防の原則」である。それは、今日の様々な環境問題に対する国際的な基本原則である。

3. 生物の多様性についての考え方
1) 生物多様性条約
  我が国は生物多様性条約に加盟している。生物多様性条約はその前文で「締約国は、生物の多様性が有する内在的な価値並びに生物の多様性及びその構成要素が有する生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリエーション上及び芸術上の価値を意識し、生物の多様性が進化及び生物圏における生命保持の機構の維持のため重要であることを意識し、生物の多様性の保全が人類の共通の関心事であることを確認し」、と定め生物の多様性が急激な勢いで減少していることを憂慮して締結された。
2) 生物多様性基本法
  この条約を受けて、我が国では生物多様性基本法が制定され、「人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、次の世代に引き継いでいく責務を有する。」という認識に立っている。
  この法律における保全・保護政策の基本的考えは「持続性」であり、そのために予防原則の立場に立っている。同法3条では「生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法」を「行われなければならない。」と定める。

第7 本件免許の違法性
1. 公有水面埋立法4条1項1号違反
1) 法4条1項1号は「国土利用上適正且合理的ナルコト」を求めている。
  2007年7月16日新潟県中越沖地震が発生し、東京電力柏崎刈羽原子力発電所が甚大な被害を受けた。柏崎刈羽原子力発電所3号機タービン建屋外部の変圧器において火災が発生し、2時間近くも燃え続けた。さらに原子力発電所敷地が波打ち、1m以上の段差が出来ているところもあること等々、被害の箇所が次々と明らかになっていった。
  その後、各号機の原子炉建屋最下階で計測された水平方向並びに垂直方向の最大加速度が、設計時の加速度値を殆どの号機で超えていること、その中でも1号機では東西方向で設計時の加速度を407ガルも超え、6号機では上下方向で253ガルも設計時の加速度を超えていることが公表され、設計時に想定した地震動が不十分であったことが現実の地震動によってあきらかにされた。
  中越沖地震の地震規模はそれ程大きくはないのに、解放基盤表面で想定しえなかった巨大な加速度を発生させ、原子力施設には甚大な被害が発生していること、東京電力が活断層の発見、評価を誤り、また、耐震設計審査指針において、一次チェックをした旧通産省、最終チェックをした原子力安全委員会もその誤りを是正することができずに設置許可処分がなされたこと等、原子力発電所の耐震安全性の確保に関する大きな問題明らかになった。
2) 2001年4月の山口県知事意見においても、「原子力発電所の耐震安全対策について、計画地点が「特定観測地域」にあり、先月末には「平成13年(2001年)芸予地震」が発生し、耐震性について懸念する意見が高まっていることを踏まえ、事業者に入念な活断層等の事前調査を行うよう指導を徹底するとともに、今後想定される地震に対応できる最新の科学的知見を反映した厳格な審査を行うこと。」を「今後の対応状況等によっては、当該計画の推進等について、県が有する権限、事務、協力等を留保することもあり得る」条件として求めている。
3) このような事情を考慮すれば、2007年7月新潟県中越沖地震を前提に原子力発電所の必要性が検討されなければならない。しかるに今回、中国電力が依拠している環境影響評価書は、2001年6月に提出されたものであるなど、こうした事情を考慮しておらず、失当である。
  したがって、本件願書に基づく埋立が「国土利用上適正且合理的なること」であるとは到底言えないのである。

2. 法4条1項同項4号違反
1) 法4号1項4号は「埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト」を求めている。
  新潟県中越沖地震によって、想定外の被害が生じたのは電力会社が、あくまで設置許可を得るために、断層の規模や活動性の評価について過小評価し続けてきたことは否定できない。また地震動評価の過程においても過小評価が繰り返されてきた。そして、変動地形に基づく断層地形の判読や地盤による揺れの増幅などの科学的知見も無視されてきた。
  他方、審査をする国側では、国策として原発を建設することを前提としているため、審査にあたっては、専門家の人選も偏向しており、専門的知見を真摯に受け入れることを怠っており、加えて委員である専門家にも中立性・客観性の自覚に欠ける者が存在し、適正な審査がなされなかったことが明らかである。
  これらのことからすれば、現状の原子力発電所の設置許可制度そのものに問題があり、公有水面埋立法が求めている本件公共施設たる原子力発電所の配置、規模が適正に審査されていると言い難い。
2) 中国電力は現在、「原子炉設置許可」の申請に必要なデータを得るために上関原子力発電所(1、2号機)建設に伴う詳細調査を実施している。その最も重要な調査がボーリング調査であるが、現時点ではそれが完了していない。ボーリング調査ではボーリング機械により地盤の調査に関わるものであり、その結果によって施設の配置、規模が変化することが予想される。
  新潟県中越沖地震によって、東京電力を始めとした関係機関の想定外の被害が生じたのは既に述べたとおりである。本件詳細調査についてもこうした想定外の事態を受けてさらに調査方法そのものも根本的に考える必要がある。
  現状では公有水面埋立法が求める公共施設たる原子力発電所の配置、規模が適正に審査できる状況にないにもかわらず認められた本件免許処分は法4条1項4号に違反する。

3. 法4条1項3号違反
1) 環境影響評価手続きの欠如、不備等
 (ア) 法4条1項3号は「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト 」とし、免許に先立って環境保全措置が講じられていることが求められる。そのための環境影響評価手続きは不可欠である。
   ところで、本件は用地面積約160万㎡という大規模な開発行為であるが、環境影響評価法に基づく環境影響評価手続きが実施されていない。中国電力は環境影響評価法施行前として本来の手続きによらない環境影響評価を行っているが、多くの問題点が存在し、本件免許は法4条1項3号に違反する。
 (イ) 祝島調査について
   山口県熊毛郡上関町祝島は祝島と小祝島からなる小島であり、島内の人口は530人ほどである。祝島は、波高い周防灘の東端に位置する周囲12キロの孤島で、古来行き交う船の航行安全を守る神霊の鎮まり給う島として崇められてきた。
   本件原発建設予定地は祝島の対岸であり、海を隔ててわずか4キロしか離れていない。仮に本件原発に放射能漏れなどの事故が発生すれば祝島は最も深刻な影響を受ける地域となる。祝島住民にとっても豊かな自然環境は漁業、観光など祝島の最も重要な資源となっている。しかるに、本件環境影響評価手続きにおいては祝島が調査されていない。
 (ウ) 海域の埋め立てによる自然破壊
   海域の中で、生態学的に最も重要な部分(生物生産を大きく支える部分)は、一番浅い部分(すなわち、潮間帯および潮下帯)である。当該計画によって埋立てられるのは、まさにその潮間帯および潮下帯であり、もし計画が実行されれば、多くの絶滅危惧種の生息場所の相当部分が永久に失われる。また、当該地では、陸の山林に浸透した淡水(雨水)が地下水・伏流水となり、海底から湧出していることがわかっている。これによって陸のミネラルが海域に供給され、生産力が高まっている可能性が高い。当該計画による陸域の開発(山林伐採、土地の掘削)と海岸部の埋立てによって、この地下水・伏流水の供給システムが半永久的に断ち切られ、周辺海域の生態系が広範囲に悪影響を受ける可能性がある。これらの点が、本件環境影響評価手続きにおいて、全く評価されていない。
 (エ) 野生生物に対する影響評価
  ① 環境影響評価書には影響評価の基礎となるべき、動植物のリストが(陸産貝類を除き)脱落しているばかりか、あらゆる項目において、不十分な検討のまま「温排水や海域埋め立てが各種生物に及ぼす影響が小さい」という趣旨の性急な結論が下されている。
  ② 貴重な生物種の生息場所及び近傍の環境の改変がそれらの絶滅リスクをどれほど変化させるかなどの定量的な予測がない。そのため、評価書の随所に見られる「影響は少ないものと考えている」などの記述は科学的とは言えない。
  ③ この海域が単なるスナメリの回遊域ではなく、瀬戸内海に残されている唯一のスナメリの繁殖地である可能性を見落としている。そのため、開発のこれら生物への影響が余りにも過小に評価されている。
  ④ カクメイ科については、科レベルでの調査があるのみで、影響評価の前提である種の同定さえ行われていない。底生生物についても既知の希少種の記載すらない。リストのある陸産貝類の種の同定には明らかな誤りがある。
 (オ) 冷却水の取水排水に伴う恒常的な生態系破壊
  ① 本件の原子力発電所が運転を開始した場合、毎日、莫大な量の海水が、冷却水として取水され、それが温排水として排出される。その海水量は、1ヶ月間で、平均水深50mの海域の1km(沖合) ×10km(海岸線)の全ての海水を取水するほど厖大である。
  ② 当該海域からは、80種もの魚種の稚仔、43種の魚種の卵、および93種の動物プランクトン(甲殻類や二枚貝などの底生動物の幼生も多数含まれる)が確認されている。それらは、どれも微小で、海水中に浮遊しているので、原子力発電所の冷却水の取水に伴って、毎日、莫大な量の海水と一緒に発電所に取り込まれ、それらは、配管内部で急激な水温上昇と生物付着阻止薬剤(次亜塩素酸ソーダ)にさらされる。
    これによって、毎日、莫大な量の魚の稚仔、魚の卵、およびゴカイ類やエビカニ類やウニ類、アワビやサザエなどお水産有用種を含む貝類の幼生が殺される(次亜塩素酸ソーダは、まさに水生生物が復水器等に付着しないよう、それらの幼生プランクトンを殺す目的で使用される。多くの魚介類の産卵、保育の場所として重要な内湾域でこのようなものを作れば、当該海域での漁業や生物多様性に壊滅的な打撃を与えることは明らかである。殺生物剤はカキの幼生にきわめて強い毒性があることが知られており、周辺海域のカキ養殖にも影響がでると考えられる。しかし、環境影響評価書では、この点が全く検討されていない。
  ③ さらに温排水は周囲の海水よりも最大7℃上昇した状態で水中に排水されることとなっており、その量が多大なことより、排水溝先の海面水温は常時1℃以上の上昇が予測されている。これは気温にも影響を与え続け、さらに半閉鎖的な環境にある瀬戸内海の水温を恒常的に上昇させ続けることが予想され、漁業にも多大な影響を与えると考えられるにもかかわらず、環境影響評価書では、この点がまったく検討されていない。
 (カ) 事故発生時の壊滅的な打撃
   原子力発電所からは、日常的に微量の放射性物質が環境中に排出される。当該海域が半閉鎖海域であるために、このような放射性物質は拡散しにくく、当該海域に滞留しやすい。地震などに伴う自然災害や人為ミスなどに由来する事故の発生は、長期的に見れば、完全に回避する事は困難であろう。たとえ事故が小規模なものであっても、ここに滞留した放射能汚染は、食物連鎖を通して魚介類に蓄積し、それによって、漁業が壊滅する恐れがある。ささいなことでも、甚大な風評被害が起こることも予想される。これらの点が全く検討、評価されていない。
 (キ) 事業者の不遜な姿勢
  ① 中国電力はアセスメント実施過程で科学的なデータに基づく警告を繰り返し受けてきた。しかし、事実に対する検討を怠り、杜撰なアセスメント手続きを実施したのである。
  ② 環境影響評価書中間報告書対するものではあるが、日本生態学会中国四国地区会は杜撰なアセスメントに対し、「当地区会は・・・このような環境影響評価に基づく開発が行われるならば、唯一残されたと言って良い貴重な生物と生態系に取り返しのつかない影響を及ぼす可能性を強く危惧するものである。」と指摘した。日本有数の大きな学会組織である日本生態学会は、大会決議によって、環境アセスメントの不備を指摘した「要望書」を事業者に手渡している。この他にも当該計画の環境アセスメントの不備は、これまで再三指摘されている。しかし、事業者(中国電力)は今に至るまでこのような指摘を完全に無視している。
  ③ たとえば、前記のように「冷却水の取水排水に伴う恒常的な生態系破壊」が予想され、その旨、日本生態学会によって指摘されているのであるが、事業者の最近の報告書では、何の根拠もないまま、「(魚の稚仔、卵、動物プランクトンなどは)、冷却水の復水器通過により多少の影響を受けると考えられるが調査海域に広く分布していることから影響は少ないものと考えられる」と記されている。
  ④ この不遜な態度は、まさに、これまでの日本の数々の公害・環境問題(たとえば水俣病や最近の諫早湾干拓事業にかかわる問題)を引き起こしてきた元凶と言えるものである。諫早湾干拓事業などの過去の事例は、きちんとした環境アセスをやらず安易に開発をすすめたことが、後でどれほどの災い(沿岸住民の直接的な苦しみや裁判の長期化などに伴う社会全体の疲弊)をもたらすか、如実に物語っている。そのような歴史からの教訓を一切無視した開発行為は、災禍を未然に防ぐという「予防」の見地から、認められるべきではない。
2) 瀬戸内海環境保全特別措置法
 (ア) 瀬戸内海環境保全特別措置法は、「瀬戸内海の水質の保全、自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画(以下この章において「基本計画」という。)を策定しなければならない。」としている(3条1項)。これを受けて山口県は基本計画において「瀬戸内海において、海面と一体となり優れた景観を構成する自然海岸については、それが現状よりもできるだけ減少することのないよう、適正に保全されていること。」を定める。これは瀬戸内の自然海岸が著しく減少し希少となっているため、瀬戸内海環境保全審議会が「瀬戸内海における埋立ては厳に抑制すべきであると考えており、やむを得ず認める場合においてもこの観点にたつて別紙の基本方針が運用されるべきであると考えている」との考えに立っていることから定められた。
 (イ) 本件埋立免許では、免許したものであるが、詳細調査も完了がないため、必要性が検討できず、必要最小限度の埋立かどうか不明である。公有水面埋立法4条1項3号は「環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」と定めているが、本件は瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく基本計画に違反し違法な免許行為である。

第8 結論
  以上から本件免許処分は違法であるから取消を求め本訴を提起した。
証  拠  方  法 
口頭弁論において、必要に応じ提出する。
附  属  書  類
1 委任状                   

                                            以上

2010年3月3日水曜日

裁判資料について

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決して読みやすいものばかりではありませんが、裁判という場において私たち一人一人が考え、学んでいくことが大切だと思います。
一人の千歩より、千人の一歩です。